雪





「うっわー、真っ白!」
 そこは、まるで銀世界だった。
 夏休みも大詰めだという、八月の半ば過ぎ。おれは冬の真っ只中にいた。
「渋谷、旅行好き?」と元クラスメイトの村田は突然3枚のチケットを手渡した。
『八月なのに、雪の旅』
どうも、懸賞であてたらしいが、自分は興味は無いからおれに、ってことらしい。だったらなんで応募したんだ?
 そもそも、何でこんな野球の面白い時期に日本を離れんだよ!とも思ったけど、あっちに行きたくていてもたってもいられなかったから、少しでも喚ばれる可能性があるならと、おれはその話に乗ったのだ。
 うちの親父とおふくろは、仕事が終わり次第来る。勝利はと言うと、面倒くさいからパスだって。
 空港を出て、泊まるホテルまで約五分。おれは歩き出した。
 今は、空もすっかり晴れていて、地面に残った雪が行く人行く人に踏みしめられてすっかり硬くなり、まるで大理石みたいに光っている。
「かた雪かんこ、しみ雪しんこ」
 自分が十一歳以下だったら、きつねさんが幻燈会に誘ってくれたかもなー。
「雪…」
 すっと立ち止まる。信号が赤だ。目の前を、車が横切っていく。
「つめたッ!」
 首の後ろから、ひんやりしたものがすーっと入っていく感触。
 冷えてきたのか、止んでいたはずの雪が降り始めた。カサを出すのが面倒で、髪や肌が濡れて冷えていく。
 あのときのことを思い出す。
 もう、だいぶ前のことのように思えた。


 そっと、右手で自分の頬に触れてみる。彼が…“おれを抱いた腕ではない”左手で、雪を掃ってくれた場所。
 ただ、冷たい。
「アーダルベルト、どうなったかな」
 って、なんでおれがあいつのこと心配するんだよッ!確かに首の怪我治してくれたし、大シマロンの追っ手からも助けてもらったけどさ。
「ちげえよ。あいつが助けたかったのは、おれじゃない」
 おれじゃない。おれの中にある、彼女のものだった魂だ。
「あんたもそうだったのか?」
 あの時の事が、どうも現実に思えない。
 いやむしろ、こうしている今が、夢なのか。
 おれたちが…あの仮面の連中に襲われたときのまま、おれは眠っているんじゃないのか。
「夢じゃないからな」
 眞魔国あっちの事を唯一知る、地球の友達大賢者の言葉が、脳裏に蘇る。
 試しに、頬をつねってみた。痛い。
「夢なんかじゃ、ねえんだよ…」
 あれからの事が、全部夢だったとしたら、どんなに楽だろう。
 この悪夢から起きたら、いつもみたいに、彼は笑ってくれただろうか。
 この、覚める訳の無い、現実悪夢から。
 おれは右手を、すっと差し出した。
 あの日、あの図書館で、最後の賭けにそっと差し出した右手。
 二度と握り返してはもらえなかった右手。

 雪が、ふわりと落ちて来て、右手の体温で溶けて消えた。

 まるで、彼みたいに。






せっかくだからお題に沿って書けよ!!っておもうのですが・・・。
まぁ、ネタって、考えるんじゃなくて、天から落ちてくるものですね。
これを考え付いた日、雪が降ってたんです。で、駅からガッコまで歩いてるときに、ユーリがしゃべりだしてくれちゃって。
書くなら今だ!と思いつつ、1限目の数Tで、ノートの上の空白に、プロット(大まかなセリフと、流れ)を書いてました。先生ごめんなさい。)
書いた後に気づいたんです。カロリア編終了後から聖砂国編に行くまでの機関に、日本では雪なんて降るわけないことに。
めざマの時点で、日本は10月末だったんだから。
おかげで導入部分が長くなってしまいました。ちょっと、ユーリがこの状況で家族旅行に行くとは思えませんが…。それほどまで、入り口を探してたのでしょう。勝馬パパも、なんとなく息子が悩んでいる事に、気づいてた気がします。(推測)今息子が行方不明なの知ったら狂いそうだもの。(勝利兄貴は、親父さんには黙っといたほうがいいかも)
ユーリの、コンラッドへの、想い。
雪の思い出。
もう、戻る事は無いのかもしれないけれど。
2005 1月28日
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