◆ 刹那に散り逝く花のように
『だって俺、宍戸さんのこと あいしてるもん』 自分でも不意を付かれて、口から零れ落ちた言葉だった。 言うつもりは無かった。 願わくば、ずっと隠し続けようとさえ思っていた。 どうせ、叶わない恋なら、傷つきたくなかったから……。 いつからだろう。 いつから、貴方の事がこんなにいとしく思えるようになったんだろう。 きっと、思い返してみても、「このときだ!」っていうのはないんじゃないかな、と思う。 一目ぼれ経験は生憎持ち合わせていないので、今までの恋が全部そんな感じだったと思う。 恋というのはなんだか違う。ドキドキはしない。ただ、苦しい。切ない。恋しい。会いたい。 こういう気持ちたちが、多分、はなびらみたいに少しずつ、少しずつ積もって、そしてこれからも僕を苦しめるんだ。 いや、苦しい時もあるけれど、同時にたくさんのしあわせな瞬間を感じることもあると思う。 だって、あいしてしまったから。 それ以上のことなんて、何もないんだ。 つい数日前にあったばかりなのに、すぐに声が聞きたくなる。 こんなとき、「あいたい。」って一言メールできる間柄だったらよかったのに、って何度思ったことか。 だって、いつまでたっても僕らの関係はタイじゃない。 永遠に1歳差。こればっかりは埋めようのない、壁。 出会う場所や時期が違っていたら些細な差。しかし、学校という場、それも義務教育という現場ではその壁は厚く、高く作用する。 どんなに親しくなっても。僕にとって貴方は永遠に先輩であり続けるでしょう。 そして僕は後輩であり続ける。 常に何かしらの位置関係が生まれるという観点では素晴らしい。たとえ接点が消えうせてもその微かな鎖が切れることはない。しかし、それは同時に可能性を否定し続ける足枷にもなる。唯一繋いでいた頼みの鎖が、今度は僕らの足を雁字搦めにして離さない。身動きをとらせない。なんて恐ろしいことだろう。 そして何より、いつまでたっても僕らの好きはイコールにならない。 僕の天秤は、皿がどこまでも食い込んでしまいそう。定員オーバーまで、きっともう少しなんだ。狂ってしまうほど、僕は貴方が好きな証拠。 貴方の天秤は、皿がまるで羽でも生えたように高く高く。 好きじゃないと嫌いは違う。一番じゃないと好きじゃないは違う。大事にしないと一番じゃないは違う。後輩と大事にしないは違う。 貴方はちゃんと僕と向き合ってくれている。色んな出来事をポジティブに解釈すると安心する。僕はちゃんと宍戸さんという個人と向き合う一個人であるんだと。 たまに、貴方から僕にくれる、Re:じゃないメール。 少しだけ、希望なんてものを持ってしまう。 貴方も僕に会いたいんじゃないかって。 四角い部屋の中に押し込まれて、僕たちは一心不乱にペンを動かす。たまに熱心に耳を傾け、首は正面と手元を往復する。 大きな講義室で、ただ板書をする。 その反復作業に嫌気が差して、引き出しの中に時計代わりに入れていた携帯電話をつい、みた。それだけのことだ。 『ちょっとラケット選びにいきてーんだけど、今暇?付き合えよ』 はっと、息を呑む。声に出なかったのは幸いだ。僕は自分にしか聞こえない音を奏でる心臓をぎゅうっと抑えて静めようとした。 このとき、もし暇だったら…いやそうでなくともしょうもない用事の最中だったら、何もかもをかなぐり捨てていったのに!! そう思いつつも、メールの返信をすることすらかなわず、授業に集中するほか無いのです。 もう一度メールを吟味すると、現実へ帰還すべく名残惜しくも携帯電話の電源を落とした。最初からこうしておくべきだった。 希望なんて抱いてはいけない。ありえない空想に現を抜かしてはいけない。 永遠に何かが劇的に変わることはない。あるとしたらこのまま関係が霧散していくという『変化』。 貴方は春から高校生。今は新しい部活のことに胸を躍らせていることでしょう。 比べて僕は春から受験生。いつもならテニスに費やす休みも、こうして春期講習という監獄に軟禁されている状態です。 結局メールをシカトしたことになって、それが気がかりになる。教師の声は遠ざかり、集中できない。 携帯メールというものは実に便利だ。相手の都合を選ばない。 だから、いつも迅速に返信する人から返信がなかったとしたら、取り込み中であろうことなどすぐに察知できるだろう。 それでも気になってしまう。この不可思議な感情を説明する病名が欲しい。 やはり電源を切っておけば。いや、そうでなくとも授業中にメールなんて見なきゃよかったんだ。 だって、「宍戸さん」って見えてしまったことが、既に罠なんだ。 ############### 今回はチョタ独白。わかりづらくてすいません。 時間軸的には春休み。高校生になる宍戸と、受験生になって忙しくなる長太郎。二人はただの先輩後輩。 全体的に精神構造が複雑な彼です。「僕」は誤植ではないでえすよ。 ポジティブといいながら、この長太郎は自信がない。宍戸さんはちゃんと長太郎のこと特別な後輩だと認識しているのに、自分は数多の後輩のうちの一人くらいにしか思われていないだろうと認識しているんです。なんでだか。 よくわからないけれど、二人には幸せになってほしい。 つづくか不明。思いついたら。 『一瞬でも愛でてもらえたら、それでいい。』 |
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